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毒の科学

毒の種類と分類|神経毒・出血毒・細胞毒

神経毒・出血毒・細胞毒という三つの言葉は、どれも「毒」を指しているのに、実際には傷つける相手が違います。神経毒はニューロンや神経筋接合部、出血毒は凝固系や血管内皮、細胞毒は細胞膜・代謝・核酸合成系を主な標的とし、その違いをNa+/K+/Ca2+チャネル、シナプス、血液凝固、膜障害という分子レベルで並べると、

毒の科学

神経毒の仕組み|シナプス遮断の分子機構

大学の薬理の実習や授業で何度も見る、あの「正常なシナプス伝達の一枚図」を思い浮かべると、神経毒の整理は一気に進みます。この記事ではその基本図を土台に、どこで信号が止まるのかを軸索伝導、シナプス前、シナプス後の3か所に分け、代表毒素の差分を重ねる形で図示しながら追っていきます。

毒の科学

LD50とは|毒の強さの意味・読み方・限界

LD50は、特定の動物種・投与経路・条件下で50%が死亡すると推定される単回投与用量を示す急性毒性の指標で、ふつうは mg/kg で表します。私が毒性試験のレビューでRat oral LD50 > 2000 mg/kgというSDS表記を見るときも、まずラットの経口データであること、単位、観察期間、

毒の科学

アマトキシン|RNAポリII阻害と肝障害の因果線

アマトキシン中毒の怖さは、食べた直後ではなく、RNAポリメラーゼIIを止めてmRNA合成を断ち、タンパク質を作れなくなった肝細胞があとから崩れるところにあります。熱や乾燥でも失活しにくいこの“時間差の毒”は、タマゴテングタケやドクツルタケだけでなく、

毒の科学

青酸カリはなぜ危険か|KCNとHCNの作用機序

青酸カリはミステリーで「口にした瞬間に即死する毒」として描かれがちですが、科学的に見ると速さの主役はシアン化カリウムそのものではなく、そこから生じる CN− と HCN です。

毒の科学

水銀・鉛・砒素を比較|毒性・症状・規制史

水銀・鉛・砒素は、同じ「重い元素の毒」とひとまとめにすると本質を見失います。毒性を分ける軸は元素名そのものではなく、無機か有機か、金属か化合物か、そして経口・吸入・経皮のどこから入るかです。

毒と文化

マッドハッターの由来|帽子屋と水銀中毒

マッドハッターは水銀中毒の象徴として語られがちですが、話はそれほど単純ではありません。19世紀の帽子製造で硝酸第二水銀が使われ、振戦や情緒変化を伴うエレチスムが職業病として現れたのは事実で、1829、1860、1861、1865、1941という年表をつなぐと、

毒の科学

ポロニウム210は毒か|暗殺事件で見えた内部被ばく

大学の放射線生物学の講義で最初に印象に残るのは、「紙一枚で止まるα線、しかし体内では細胞核に直撃する」という対比です。放射性物質は毒と呼べるのか――この問いは、毒性学の演習で扱う mg/kg の LD50 と、放射線で使う Bq・Sv の線量がまったく別のものだと気づいたところから、

毒と文化

フィクションと毒|文学・映画・ゲームの表現と現実

毒は刃物のように形を持たず、しかも物語の中心で強烈な存在感を放つ、めずらしい「見えない攻撃」です。青酸化合物を扱う小説、映画、ゲームを続けて追ってみると、症状が出るまでの時間が、文学では数分の沈黙や伏線に、映画では数秒の演技と編集に、ゲームでは1ターンごとの継続ダメージに変換されていくのがよく見えます。

毒と文化

シェイクスピアの毒|ハムレットとロミオの科学

ハムレットとロミオとジュリエットに出てくる毒や薬は、筋書きを動かす小道具であるだけでなく、シェイクスピアの時代感覚を映しています。 本稿では、1594年頃のロミオとジュリエットと、1599〜1601年頃に成立し1602年頃に初演された全5幕・約4000行のハムレットを対象に、

毒と文化

コナン・ドイルと毒薬|ホームズの毒物学

シャーロック・ホームズに現れる毒は単なる怪奇趣味の小道具ではありません。 アーサー・コナン・ドイル(1859–1930)は、エディンバラ大学医学部(1876–1881)で得た医師としての視座と、ヴィクトリア朝末の法科学や帝国の交易路を通じて流入した異国の知識を下地に、毒を描き出しました。

毒と文化

APTX4869の科学|無痕跡毒・幼児化・記憶

ロンドン編と、灰原哀の試作解毒薬が効く修学旅行編を並べて見直すと、この薬の「戻り方」は場面ごとの演出ではなく、可逆性そのものが物語の骨格に組み込まれているとわかります。